限界応力評価試験は、材料が応力と環境の組み合わせでどこまで耐えられるかを調べる試験です。評価対象は大別すると、樹脂製品が薬品・溶剤との接触で割れる「環境応力き裂(ESC)」と、金属が腐食環境下で割れる「応力腐食割れ(SCC)」の2つに分かれます。どちらも手法が多岐にわたるため、目的に合った治具・試験片を選ぶのは簡単ではありません。
このページでは主な手法を比較し、選び方を解説します。治具の設計に必要なひずみ量を計算するツールと、材料と試験目的から候補の治具を絞り込むフローチャートも用意しましたので、限界応力評価試験を検討されている方はぜひご参考ください。
※ この分野の現象・試験は、ソルベントクラック、ストレスクラック(ストレスクラッキング)、ケミカルクラック、薬品クラック、耐薬品性試験、環境応力き裂(ESC/ESCR)、限界応力測定、応力腐食割れ(SCC)など、業界・社内によってさまざまな呼び方をされますが、本ページではこれらをまとめて扱います。
試験手法の全体像
試験手法の比較
ひずみ計算ツール
治具選定フローチャート
よくあるご質問
試験手法の全体像
限界応力評価試験は、対象材料(樹脂/金属)と負荷の与え方で以下のように分類できます。
対象材料
試験手法
限界応力評価試験
割れの限界を調べる
樹脂:環境応力き裂
ESC/ソルベントクラック
金属:応力腐食割れ
SCC・硫化物割れ
定ひずみ法(曲げ)
決めたひずみで合否・比較
R面曲げ法
ISO 22088-3 準拠
3点曲げ法
治具:固定式/可変式
ベント法
ベントストリップ/ASTM D1693
1/4楕円法
1本で限界ひずみ特定|治具多数
定引張応力法・ランダー法
JIS K 7108/ASTM D2552
浸せき法(無負荷比較)
JIS K 7114
3点・4点支持ビーム法
NACE TM0177 Method B
Uベンド法
ASTM G30
Cリング法
ASTM G38
限界応力評価試験割れの限界を調べる
樹脂:環境応力き裂ESC/ソルベントクラック
定ひずみ法(曲げ)決めたひずみで合否・比較
R面曲げ法ISO 22088-3 準拠
3点曲げ法治具:固定式/可変式
ベント法ベントストリップ/ASTM D1693
1/4楕円法1本で限界ひずみ特定|治具多数
定引張応力法・ランダー法JIS K 7108/ASTM D2552
浸せき法(無負荷比較)JIS K 7114
金属:応力腐食割れSCC・硫化物割れ
3点・4点支持ビーム法NACE TM0177 Method B
Uベンド法ASTM G30
Cリング法ASTM G38
ポイント: 手法選びの分かれ目は「限界(閾値)を特定したい のか、決めた条件で合否・比較をしたい のか」です。前者なら1/4楕円法、後者なら定ひずみ法が第一候補になります。
試験手法の比較
主な試験手法について、負荷の与え方や規格、適した場面などを比較できるよう以下の表にまとめました。
手法 負荷の与え方 ひずみ場の性質 主な規格 1治具あたりの条件数 適した場面
R面型 定ひずみ
所定半径のR面に試験片を沿わせる
評価面全体が均一ひずみ(ε=h/(2r+h)、幾何形状で決定)
ISO 22088-3
1条件(半径×板厚で固定)
規格準拠データ・社外提出・ラボ間比較
ベント法(ベントストリップ法)
ノッチ付き試験片をU字に曲げてホルダーに装着し、薬液に浸せき
ノッチ+高ひずみの過酷条件(50%破壊時間 F50 で評価)
ASTM D1693、JIS K 6761 附属書(PE管)※旧 JIS K 6760(廃止)
1条件(過酷条件固定)
ポリエチレン等の耐ESCスクリーニング・材料受入判定
3点曲げ 定ひずみ法
3点曲げで所定の変位を付与(ε=6hy/l²)
中央で最大・支点でゼロの勾配(式は中央最大値)
―(実務標準)
治具による: 固定式=1条件 可変式=1台で複数条件(スケール式/デプスゲージ式)
低コストの合否評価(固定式)・条件探索(可変式)
1/4楕円法(ベルゲン式)
楕円面に沿わせ連続ひずみ勾配を付与
1本の試験片上にひずみが連続分布→クラック発生位置から限界ひずみを読み取る
―(文献法として普及)
1本で連続範囲(治具は試験片サイズ・設置数別に多数の型式あり)
限界ひずみ(閾値)の特定・薬品ランキング
定引張応力法
一定の引張応力(荷重)を負荷
断面均一応力。応力緩和の影響を受けない
JIS K 7108
1条件
長時間の破断時間評価・応力基準の設計データ
ランダー法
定荷重での引張クリープ破断
同上
ASTM D2552(関連:ISO 16770 FNCT)
1条件
耐薬品クリープ破断評価
浸せき法
無負荷で薬品に浸せき
応力なし(膨潤・質量変化・強度低下を評価)
JIS K 7114
―
薬品自体の影響の切り分け・定ひずみ試験との併用
3点・4点支持ビーム法(金属)
ビーム曲げで定ひずみ(腐食環境中)
3点は中央最大、4点は内側支点間が等曲げモーメント(均一応力)
NACE TM0177 Method B
1条件
硫化物応力割れ・応力腐食割れの合否評価
Uベンド法・Cリング法(金属)
塑性曲げ/リング締付けで負荷
Uベンドは高ひずみ域の過酷条件、Cリングは周方向応力
ASTM G30/G38
1条件
スクリーニング・管材/曲面材の評価
NOTE 01
R面型と3点曲げ型の本質的な違いは「ひずみ場の性質」
▼
R面型は試験片が円弧に沿うため評価面全体が同一ひずみになり、ひずみは板厚と半径だけで決まります。3点曲げ型のひずみは中央の1断面での最大値で、支点に向かって直線的に小さくなります(例:支点間100mmでε=1.0%設定時、中央から25mm離れた位置のひずみは0.5%)。精度の優劣ではなく「ひずみ場の性質」の違いとして理解し、データの用途に合わせて選ぶことが重要です。
NOTE 02
設定ひずみの大きさによって手法も変わる
▼
3点曲げの式(ε=6hy/l²)は小たわみ理論に基づく近似のため、大きなひずみを設定するとたわみ量が増えて誤差と端部処理の課題が大きくなります(例:板厚2mm・支点間80mmでε=2.0%を狙うと必要変位は約10.7mm)。精度面では、1%を超えるひずみ設定はR面型が有利です。R面型なら ε=h/(2r+h) より半径約49mmのコンパクトな治具で、評価面全体に均一な2.0%を与えられます。ただしコンパクト=低コストではありません(NOTE 03参照)。
NOTE 03
試験片の同時設置数が治具のサイズと費用を左右する
▼
同時に試験する試験片が1本か、2本か、5本かで治具のサイズと費用は大きく変わります(これは定ひずみ・楕円とも共通です)。構造面では、3点曲げ式(固定式)は板と丸棒によるシンプルな構成のため最も安価に製作できます。可変式は部品点数と組立工数が増えるため費用が上がります。R面型は曲面をワイヤーカットで加工するため費用は高めで、特に設置数が多く治具幅が広い場合は加工時間が大きく増えます。つまり「精度のR面型・コストの3点曲げ式」であり、コンパクトさと費用は別物です。お問い合わせの際は同時設置数をお知らせいただくと、正確な費用感をすぐにご案内できます。
NOTE 04
試験は1つの手法で完結するとは限らない
▼
実務では「①1/4楕円治具で限界ひずみのおおよその値を特定 → ②その近傍のひずみを定ひずみ治具に設定して合否・耐久を検証」という2段階の進め方が効率的です。当社でも楕円治具の納入先が、次の段階で定ひずみ治具を追加されるケースが多くあります。
ひずみ計算ツール
次の3つのツールで、治具の寸法や限界ひずみを計算できます。タブを切り替えて試験の手法に合ったものを選び、必要な数値を入力してください。計算結果はその場で表示されます。
円弧曲げ(R面型)
3点曲げ
1/4楕円法
TOOL 01 円弧曲げ(R面型・ISO 22088-3)
ε = h / (2r + h) × 100
ε:ひずみ(%) h:試験片厚み(mm) r:治具半径(mm)
試験片の厚みと目標のひずみを入力すると、必要な治具の半径が求められます。
試験片厚み h mm
目標ひずみ ε %
必要な治具半径 r = 249.0 mm
手持ちの治具の半径から、ひずみを確認する▼
※ ひずみは試験片の引張側表面の公称値です。
お問い合わせ内容(コピーして、フォームの「お問い合わせ内容」欄に貼り付けてください)
治具選定フローチャート
評価したい材料や試験の目的をもとに、候補となる治具を絞り込めます。最大3つの質問に回答いただくと、推奨する手法と治具の型式が表示されます。
01 評価したい材料は?
樹脂・プラスチック
金属
02 試験の目的は?
割れが発生する限界ひずみ(閾値)を特定したい
決めたひずみ条件で合否判定・材料/薬品の比較をしたい
応力(荷重)一定での破断時間を評価したい
03 評価するひずみ条件の数は?
1〜2条件で数を並べたい/条件は決まっている
複数条件を振って探索したい
規格(ISO 22088-3)準拠のデータが必要
よくあるご質問
定ひずみ治具と楕円治具はどう使い分けますか?
定ひずみ治具は「決めたひずみで割れるか割れないか」を評価する治具で、1台(1設定)につき1条件です。楕円治具は1本の試験片に連続的なひずみ勾配を与え、クラックが発生した位置から「割れが始まる限界ひずみ」を1回の試験で特定できます。閾値を知りたい場合は楕円治具、決まった条件での合否判定・比較には定ひずみ治具が適します。
1/4楕円法はJISに規定がありますか?
JISには規定がありません。文献法・実務標準として樹脂メーカーや研究機関で広く使われている手法で、少ない試験回数で限界ひずみを特定できる点が評価されています。規格準拠が必要な場合はISO 22088-3(ベントストリップ法)やJIS K 7108(定引張応力法)と組み合わせて計画します。
R面型と3点曲げ式の定ひずみ治具は何が違いますか?
ひずみ場の性質と構造が異なります。R面型は試験片をクランププレートで円弧面に沿わせて固定するため評価面全体が均一ひずみになり、ひずみは板厚と治具半径だけで決まります(ε=h/(2r+h))。3点曲げ式は支点の丸棒に試験片を渡して変位を与える構造(クランプ機構なし)で、ひずみ(ε=6hy/l²)は中央断面での最大値、支点に向かって小さくなります。R面型は規格準拠・再現性重視(曲面のワイヤーカット加工のため費用は高め)、3点曲げ式は板と丸棒のシンプルな構成で低コストです。3点曲げ式には固定式(最も安価・引き合い最多)と、1台で条件を振れる可変式があります。
ひずみの計算式を教えてもらえますか?
円弧曲げ(R面型)は ε=h/(2r+h)、3点曲げは ε=6hy/l² です。本ページの計算ツールで治具半径や必要変位量をその場で計算できます。試験片の板厚公差もひずみに直接効くため、条件設定の際は板厚の実測をおすすめします。
ソルベントクラック、ストレスクラック、ケミカルクラック、環境応力き裂(ESC)は何が違うのですか?
いずれもほぼ同じ現象(応力がかかった樹脂が薬品・溶剤との接触で割れる現象)を指す呼び方の違いです。学術・規格上は「環境応力き裂(ESC)」、耐性を表す指標は「ESCR」と呼ばれます。原因物質に着目してソルベントクラック(溶剤)・ケミカルクラック(薬品)、現象に着目してストレスクラックと呼ばれることもあります。金属で同種の現象は「応力腐食割れ(SCC)」と呼ばれ、試験方法の体系が異なります。
大きなひずみ(1〜2%以上)を設定したい場合、どの治具が良いですか?
精度面ではR面型 定ひずみ治具をおすすめします。3点曲げ式は大きなひずみを設定するとたわみ量が増え、計算式(小たわみ近似)の誤差や試験片端部の処理が課題になります。R面型は半径を小さくするだけで大きな均一ひずみをコンパクトな治具で実現できます(例:板厚2mmでひずみ2.0%なら半径約49mm)。ただしR面型は曲面加工(ワイヤーカット)のため、コンパクトでも費用は3点曲げ式より高くなる場合があります。精度とコストのバランスは同時設置数も含めてご相談ください。
ベント法(ベントストリップ法)とはどんな試験ですか?
ノッチを入れた試験片をU字に曲げてホルダーに装着し、薬液に浸せきしてクラック発生までの時間(50%破壊時間 F50)を評価する環境応力き裂試験です。ASTM D1693に規定され、日本では現行のJIS K 6761(一般用ポリエチレン管)の附属書にも試験規定があります(かつてはJIS K 6760〔廃止〕に規定)。ポリエチレンなどの耐ESCスクリーニングに広く使われ、当社では専用の試験片ホルダーの製作実績があります。
製作実績のない治具や、このページにない治具も製作できますか?
可能です。特注の試験治具・試験片の設計製作が当社の本業であり、初めての形式でもお打合せで試験の目的と条件をお伺いし、新規に設計いたします。本ページに挙げた手法は代表例で、対応範囲を示すものではありません。
治具の材質はどう選びますか?
使用する薬品・溶剤と試験温度に対する耐食性で選定します。一般にはステンレス鋼(SUS304/SUS316)が標準ですが、腐食性の強い薬品や高温条件では材質変更や表面処理をご提案します。お問い合わせの際に薬品名と試験温度をお知らせください。